竹中直人が岡倉天心、中村獅童が横山大観、平山浩行が菱田春草を演じた映画「天心」という映画があることを知ってこの2年くらい気にしていた。茨城県行方市で開催された弐湖の國映画祭で松村克弥監督の舞台トークを聞き、交流会でワインを飲みながらいくつか質問させていただき、翌日はロケ地めぐりで役者さんたちと演出をめぐってやりとりされた様子を聞かせていただいた。こんな贅沢な映画祭は珍しい。今年は上野の博物館で日本の洋画発展の功労者である黒田清輝の回顧展も観ていたので、この映画はとりわけ感じるものがあった。
江戸時代まで武家社会の権力者をパトロンとして発展してきた邦画界が明治の文明開化の波に飲み込まれそうになった混乱期が時代背景となっている。絵画の革新という目的をもって洋画の方向を目指す人たちもいれば、邦画そのものの革新をめざす人たちもいる。そういう時代にお雇い外人教師のフェノロサに啓発された岡倉天心がいて、その天心の才能を慕う邦画界の綺羅星たちが五浦に結集する。まるで水滸伝みたいな話に引き込まれた。
日本美術院を追われた岡倉天心を慕う横山大観が「屈原」の絵を描いたことは聞き知っていた。横山大観の描いた「屈原」という絵に思い入れがあることについてはしばらく前にブログに書いている。この映画で狩野芳崖をフェノロサ先生と岡倉天心が訪ねる場面、横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山の4人の高弟とその家族を引き連れて天心先生が茨城県五浦にこもる場面、哲学者九鬼周造にゆかりのある場面など印象に残った。映画祭初日の夕べの交流会でこの素晴らしいイベントを主催された湖魔女委員会の皆さんと参加人たちとで盛り上がった。
映画祭2日目のロケ地めぐりツアーも面白かった。映画の登場人物である横山大観、下村観山、木村武山にゆかりのある石碑がある西蓮寺を訪れた。当初参加を予定されていた五藤利弘監督の「花蓮~かれん~」のロケ地でもある。この映画のワンシーンとして登場した木の洞で松村監督他の皆さんが三浦貴大が演じたレンコン農家の青年のポーズを真似て記念撮影をした。
その次に行方市の大塲家郷士屋敷を訪れた。中村獅童が演じた横山大観の家として映画に登場した家だ。東京美術学校を追われた天心先生を楚の詩人・宰相であった屈原に見立てた大観の絵が登場した部屋を観た後で、大観が家族と食事をしていた場面に使われた小部屋も特別に見せていただくことができた。熱の入った松村監督が身振り手振りで演出当時の様子を説明された。すごい迫力だった。