高倉健の主演作品では1985年の「夜叉」が一番好きだ。2012年の映画「あなたへ」は、「夜叉」の降旗康男監督と主演の健さんとヒロインの田中裕子と脇を固める北野武の4人が再結集した同窓会みたいな映画だ。27年の歳月を経て同じ顔合わせが復活するというのは凄い。それだけの思い入れが「夜叉」という作品にあったのだと思う。「夜叉」ではヤクザの世界から足を洗うきっかけとなった恋女房がいる。この役を石田あゆみが好演している。そこに捨ててきたはずの世界の妖しさと美しさを体現したかのような薄幸の美人が現れる。とても難しい役を田中裕子が見事に演じている。田中裕子にとって最高傑作となった作品だ。
東映任侠映画の黄金期に健さんは圧倒的に輝いていた。それから約半世紀が過ぎてもこの人は俳優として輝き続けた。「昭和残侠伝」シリーズの花田秀次郎を演じた健さんと若い日の藤純子の名コンビも素晴らしい。降旗監督と健さんの関係は東映の任侠映画時代からで長い。その後も名作が続く。1981年の「駅ステーション」、1983年の「居酒屋兆冶」、1999年の「鉄道員 ぽっぽや」はどれも健さんの魅力が光る名画だ。「居酒屋兆治」の撮影と重なる時期に黒沢明監督から「乱」(1985年)への出演依頼があったそうだが、世界のクロサワに4度足を運ばれても首を縦に振らなかったことを健さん自身のインタビューで明らかにしている。降旗監督に義理立てしてのことだそうだ。その後だいぶ経ってから「出れば良かったかな」と後悔もしたそうだ。
「居酒屋兆治」も名作なので、ファンとしては「乱」への出演依頼を断った話を聞いて複雑な気持ちになる。この映画の構図は「夜叉」に少し似ている。「居酒屋兆治」の主人公には野球人生で挫折してからの再出発を支えてくれた愛妻がいる。この役を加藤登紀子が好演している。そこに若い頃にお互いに実らなかった恋の相手だった女性が現れる。半ば狂気じみた薄幸の美人を大原麗子が演じている。狂気をはらんだ一瞬を切り取った映像と言う意味では主人公のことが気になって仕方がないのに酔っぱらって主人公にからんでしまう伊丹十三の演技、薄化粧で血を流しながら歌い続けるカラオケ男の演技、主人公への気持ちを抑えきれずに狂っていく大原麗子の演技。そのすべての場面を言葉少なく、身体で表現する高倉健の演技。「居酒屋兆治」は傑作だ。
降旗監督という人は他にも三田佳子の主演で撮った1987年の「別れぬ理由」、常盤貴子主演の2004年の「赤い月」を撮っている。おそらく最盛期の女優の輝きを映し出すことにかけては屈指の名監督なのだと思う。
東映任侠映画の黄金期に健さんは圧倒的に輝いていた。それから約半世紀が過ぎてもこの人は俳優として輝き続けた。「昭和残侠伝」シリーズの花田秀次郎を演じた健さんと若い日の藤純子の名コンビも素晴らしい。降旗監督と健さんの関係は東映の任侠映画時代からで長い。その後も名作が続く。1981年の「駅ステーション」、1983年の「居酒屋兆冶」、1999年の「鉄道員 ぽっぽや」はどれも健さんの魅力が光る名画だ。「居酒屋兆治」の撮影と重なる時期に黒沢明監督から「乱」(1985年)への出演依頼があったそうだが、世界のクロサワに4度足を運ばれても首を縦に振らなかったことを健さん自身のインタビューで明らかにしている。降旗監督に義理立てしてのことだそうだ。その後だいぶ経ってから「出れば良かったかな」と後悔もしたそうだ。
「居酒屋兆治」も名作なので、ファンとしては「乱」への出演依頼を断った話を聞いて複雑な気持ちになる。この映画の構図は「夜叉」に少し似ている。「居酒屋兆治」の主人公には野球人生で挫折してからの再出発を支えてくれた愛妻がいる。この役を加藤登紀子が好演している。そこに若い頃にお互いに実らなかった恋の相手だった女性が現れる。半ば狂気じみた薄幸の美人を大原麗子が演じている。狂気をはらんだ一瞬を切り取った映像と言う意味では主人公のことが気になって仕方がないのに酔っぱらって主人公にからんでしまう伊丹十三の演技、薄化粧で血を流しながら歌い続けるカラオケ男の演技、主人公への気持ちを抑えきれずに狂っていく大原麗子の演技。そのすべての場面を言葉少なく、身体で表現する高倉健の演技。「居酒屋兆治」は傑作だ。
降旗監督という人は他にも三田佳子の主演で撮った1987年の「別れぬ理由」、常盤貴子主演の2004年の「赤い月」を撮っている。おそらく最盛期の女優の輝きを映し出すことにかけては屈指の名監督なのだと思う。
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