2015年1月6日火曜日

五藤利弘監督 映画「愛こそはすべて All you need is love」を観ました

年が明けても12月に公開された五藤監督の「ゆめはるか」をめぐってマスコミの報道が続いている。2013年の秋に公開された五藤監督の作品「愛こそはすべて」を観る機会があったので感想をまとめてみた。

ビートルズの熱烈なファンである五藤監督は、この映画のタイトルとして名曲「All you need is love」を使っている。フリーターの若者が突然、病気になってから始まるこの映画は全編がジョン・レノンの書いた詞をフォローしているとも言える。死に直面した若者に、友人や元カノが繰り返す「ごめんね。何もしてあげられなくて」という台詞もこの歌につながるものだ。「できないものは、どうしたってできないさ」「救えないものは、どうしたって救えないさ」「自分にできることをするだけなんだ」「愛することこそがすべて」という歌詞はこの映画のテーマでもある。


フリーターの若者の住む部屋の近所にブランコがあって、重要なやりとりがブランコに乗った主人公たちによって演じられていく。五藤監督の尊敬する黒沢明監督の「生きる」へのオマージュであることは明らかだ。この映画の最大の魅力は初期の短編栃尾映画で高校生の役を演じた藤田彩子が演じるヒロインだと思う。映画のラストシーンでの熱演も印象的だが、死を目の前にしたからと言ってよりを戻そうとする元カレに対するストレートな台詞の数々に説得力がある。この女優さんを再発見した思いがした。


抒情的な作品を発表してきた五藤監督としてはかなり大胆な作品でもある。元カノとよりを戻そうとして断られた主人公のフリーターは死亡保険金の受取人になりませんかという形で様々な女性にアプローチする。この映画の見どころでもある。五藤監督はドキュメンタリー映像の作家としての仕事もしているので、その手法が生きている感じがする。マイクを手にした五藤監督が、街頭で若い女性たちにインタビューしているような印象を受ける。出会い系サイトの人妻、自傷行為と刺青の女性、ヤンキー娘、外資系に勤める働く女性の群像ドラマという見方もできるだろう。


主人公の若者について言えば殺風景な部屋で郷里の母親が送ってくれたおこわをかみしめる場面で前作「スターティング・オーヴァー」を思い出す。突然に死の淵に立たされるテーマは最新作の「ゆめはるか」につながるものだ。蛇足ながら若者の名前は優で、ヒロインの名前は愛。「All 優 need is 愛」という監督のユーモアにすぐ気が付いた人は即日五藤監督ファンクラブに入会していただきたい。いろいろと仕掛け満載の映画なので、観る人ごとに映画の印象は変わるはずだが、監督のファンにとっては見逃せない作品だ。


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