2015年12月4日金曜日

ベント・ハーメル監督 「1001グラム ハカリしれない愛のこと」

2014年の東京国際映画祭に出品されたノルウェイ映画だそうです。キログラム原器をめぐる物語なので、英語で「1001 grams」という風変りなタイトルがついている。 淡々とした味わいと人生について静かに考えさせる雰囲気はワインとミッドライフ・クライシスを描いたアレクサンダー・ペイン監督の「Sideways」を思い出させる。ヒロインのマリエを演じたアーネ・ダール・トルプが素晴らしい。国立計量研究所に勤めるヒロインは、堅物の変わり者。前半の場面ではあんまり美人に見えないこのヒロインは気難しい表情をしている。彼女の結婚生活は破綻して夫とは離婚裁判の継続中。気の良い父は老いて死期が近い。文字通り杓子定規であることが求められる仕事の影響なのか堅苦しい日々が淡々と続く。

ヒロインがキログラム原器についての国際会議に出席するためにパリに出張することになったのが、きっかけですべてが変わりだす。この辺りは大人の童話仕立て。まずは愛する父が死んでしまう。離婚調停中の夫は自分の留守に何もかも持ち去ってしまう。動揺したヒロインは運転を誤り、自慢のエコカーごと横転する。大怪我にはならなかったが、大切なキログラム原器の容器に傷がつく。この辺りはこれでもか、これでもかと彼女のこれまでの人生に疑問を投げかけるような試練が続く。切羽詰まったヒロインを助けるのがパリの出張中に出会ったなんだかほんわかした包容力のある男である。話が都合良すぎるなどと思うのは筋違いだ。これは大人の童話なのだろう。

この映画の最大の魅力は、ストーリーの展開に沿って、初めは無表情で、気難しそうだったヒロインの、様子や表情が魔法のように変化していくことだ。この映画を観終わった頃にはすっかりこのヒロインが大好きになっていた。最後のラブ・シーンがとてもきれいで幻想的ですらある。あまりにロマンチックな映像なので、最後の秀逸な台詞に「えーそれもありか」とびっくりした。プログラムで映画評論家の佐藤忠男が「素敵な映像のぬくもり」と温かくコメントしている。

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