2014年10月5日日曜日

エリダル・リャザノフ監督「持参金のない娘」 マリーナのジャムは甘美な味がする

ロシアNOW7月17日号の「電気梨、Hな苺、苦悩の玉葱」というロシアの野菜と果物の名前にまつわるイメージについての記事が面白かった。Hな苺って何だろう?最初に思い出したのは「カリンカ」という有名な歌だ。1994年に西シベリアの石油ガス田のリハビリ・プロジェクトのモニタリングで初めてロシアを訪れた。モスクワで仏の技術者三人と合流して晩飯を食べることになった。音楽のおじさんたちがやってきてリクエストに応えてくれた。仏エンジニアのリクエストで始まった「カリンカ」はカリーナ(がまずみ)の意味だが女性の名前でもある。名前の終わりを「カ」とあ行にすると「カリーナちゃん」になる。この歌には苺類(ベリー)の総称「ヤゴダ」もその一種である「マリーナ」も出てくる。マリーナは木苺(ラズベリー)とも蝦夷苺とも訳される。この名前の女性は多い。タシケントの同僚はマリーナだったし、ビシュケクの同僚はカリーナだった。繰り返しの多い「カリンカ」の歌を聴いていると、これは女性に対する呼びかけの歌に違いないことがわかる。

中央アジアに住んで砂糖が生活必需品であることに気がついた。2010年のキルギス政変が4月の始めに起きると治安維持を理由にお隣のカザクスタンは7月まで国境を閉鎖した。カザクの中心都市アルマーティからキルギスの首都ビシュケクまでは車で4時間くらいだ。様々な物資がカザクからキルギスに輸入されている。キルギスからカザクへは果物や中国、トルコからの量産品の衣類が輸出される。この国境閉鎖でとても困ったのが夏場に砂糖が不足したことだ。生のマリーナはそのままでは保存がきかないが砂糖漬けのジャムにしてしまえば一年を通じて食べられる。冷蔵庫も冷凍庫もない時代からの生活の知恵であり、今でも厳しい冬を乗り切るために欠かせない食品だ。


「Hな苺」からの連想でマリーナを使った色っぽい場面が出てくる映画を思い出した。ニキータ・ミハルコフの「残酷なロマンス」(邦題:「持参金のない娘」)だ。この映画の英語タイトルはcruel romanceと直訳。邦訳はわかり易いがちょっと味気ないと思ったら原作のタイトルの直訳だった。この映画ではミハルコフ監督自身が白馬に乗って登場する粋な二枚目を演じている。美人で歌の上手いヒロインの気を引いてさんざんその気にさせたところで、彼のビジネスが破綻し自慢だった豪華客船を売り渡すはめになる。いろいろな騒動があって哀しい結末となる。


この映画の始めの方でヒロインの誕生日の場面がある。没落しつつある娘の家にとっては裕福な嫁入り先探しの日でもあり、リッチな招待客の男たちに娘のための高価プレゼントをねだる大事な日だ。飲んでさわぐ他の客たちを避けてキッチンの隅にいる粋な二枚目のところにヒロインがやってくる。手に持っているいるのがマリーナの皿。「召し上がる」「ありがとう」となった後で男のひげにマリーナがついてしまった。娘が「ちょっと待って」と指で取る。さりげなくその手を抑えた男はマリーナのついた指をぱくっと舐めてしまう。とても官能的な場面だ。


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