バルカン半島の国マケドニアに住んでいた時にこの映画のDVDを見つけたので買っておいた。数年経ってから170分の大作を観た。第一部が第二次大戦下の対独パルチザン時代、第二部が冷戦下のユーゴ時代、第三部がユーゴ崩壊後の内戦時代。音楽とドタバタと色っぽさが満載で魅力たっぷりの映画だ。映画の冒頭で爆撃されている動物園の飼育係イヴァンと猿の組み合わせが狂言回し風に3つの話をつなぐ。マルコとナタリアの恋の物語なのかと思うと、「黒」のニックネームで呼ばれるとんでもない男ペータも入って三つ巴の大騒ぎだ。可愛いしたたか女優のナタリアをナチの将校から取り返すために奮闘するこのペータは、いつの間にかパルチザンの英雄となる。親友マルコとナタリアは、ナチに囚われ拷問されるペータを取り戻すがその甲斐もなくペータは命を落とす。
第二部では戦争が終わったはずなのに地下に立てこもって避難生活を続けながら、抗戦のために武器を造り続ける集団がいる。非業の死を遂げたはずのペータの名声を利用して、マルコはチトーの側近として表の世界で地位とナタリアの両方を手に入れた。地下で生活する集団による密造兵器の売買で活動資金を作っている。マルコはこのビジネスを継続するために外の世界では戦争が続いていることに信じさせるため、インチキ映像と音楽を流す。ここで使われるのがドイツ軍の侵攻を演出するための「リリー・マルレーン」。ナタリアは罪の意識からアル中になる。マルコは叫ぶ「それもこれもお前を愛しているからじゃないか」。やがてこの嘘はばれる。ペータは外の世界に飛び出して行き、錯乱の中で息子を死なせ、自分も命を落とす。
第三部では東西冷戦が終わり、ユーゴ内戦が始まっている。その一隊を率いるのは死んだはずなのに生きていたペータ。武器商人となって国際手配されているのはマルコとナタリア。マルコの弟イヴァンが居合わせてすべてを知る。怒りに震えた弟は兄のマルコを木で打ち据える。瀕死のマルコとナタリアは内戦の兵士に捕えられる。ペータは知らずに、処刑の命令を出す。ようやくめぐり合えた友達と恋人を殺させてしまったことを知ってペータは嘆く。
話の展開が奇抜で劇中の映画撮影の形で似たような場面も繰り返されるので混乱してしまう。第一部だけでも十分に面白い。第二部は共産主義によるマインド・コントロールの比喩みたいな感じがする。第三話は兄弟殺しのユーゴ内戦の批判だ。第一部でナチの空爆に腹を立てて「俺の街を破壊する奴は誰だろうと許さん」というペータは熱い男だ。彼が「黒」のニックネームで呼ばれるのは知識人であるマルコの表の生活を支える影の男と言う意味もあるだろう。「この映画に終わりはない」というタイトルに続いて、ひょっこりひょうたん島のような場所の場面となり、死んだはずの登場人物たちが勢ぞろいで大騒ぎが続く。バルカン半島の重い歴史をテーマにしていながら、とんでもなく猥雑で、途方もない傑作だ。
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