2014年10月4日土曜日

滝田洋二郎監督「僕らはみんな生きている」

この映画は1999年の春にウズベキスタンに赴任するしばらく前に観たので思い入れの強い作品だ。この年の4月に赴任する前の3月初めに、家探しやら引き継ぎやらで初めてこの国の首都タシケントを訪問した。タシケント市内の4か所で同時爆弾テロがあったのはその直前の2月のことだった。映画の中にも爆弾騒ぎが出てくる。映画の舞台となっている国の名前「タルキスタン」もお隣のタジキスタンとトルクメニスタンを足して2で割ったような名前だ。

当時はまだVHSの時代だった。前任者の反応にも興味があったのでこの映画を持参すると、タシケント在住の商社マンの皆さんに回覧されたみたいでなかなか返ってこなかった。観たい気持ちはわかる。この映画のキャストが素晴らしい。真田広之、山崎努、岸部一徳、嶋田久作それぞれ絶妙な熱演だ。東京から橋の建設のコンペの応援にきた若手のやり手設計者を真田広之が演じた。のんびりしたペースとのらりくらりと嘘をつく現地側の対応にしびれをきらしたこの主人公は「ここは発展途上国ではない!後退途上国だ!」と叫ぶ。しぶい現地所長を山崎努が演じた。すごくクールでシニカルなこの所長は実は裏で政府側と通じている。彼の家族は長い現地駐在の間に崩壊した。

エビ輸入専門商社の駐在員を演じたベンガルもすごい。この駐在員は家族思いで日本から届くビデオレターを楽しみにしている。今度こそ帰れるはずだと思っている彼のもとに一通のテレックス電が入る。後任が見つからないので任期延長という短い便りだった。放心し、怒りにかられた彼は内戦の始まった路上で「バカヤロー」と叫んでいるうちに流れ弾で殺されてしまう。生き残った4人は銃撃戦の繰り広げられた通りを抜けて空港に向かうために叫ぶ。「俺たちは日本のビジネスマンだ。殺さないでくれ」。殺し合いの中でそれに耳を傾ける兵士はいない。銃弾の雨は飛んでくる。この映画を観て平気でいられる駐在員は少ないだろう。

高校同窓の友人が原作漫画 (一色伸幸原作、山本直樹作画)を貸してくれた。全4巻を読んだ。映画の名場面が甦ってきて感動する一方で、違和感もある。長い物語を映画化するにあたってテンポが速くなるのはいつものことだが、2点について原作漫画と映画は決定的に違う。一つはこの物語全体を通じて重要な役割を果たすセーナの設定だ。映画では男性になっている。当初は原作通りに役を作る予定だったがイメージにふさわしい女優さんが見つからなかったとされている。もう一つはこの物語の結末である。この原作漫画と映画のどちらにも味がある。
 

1 件のコメント:

  1. ブログ拝見で、観たくなりました。最後に書かれている、原作と映画に違いみ興味深いですね。観て、読むの両方ですね。時間がなかなか無くて困ったものです。

    返信削除