2014年10月5日日曜日

ニキータ・ミハルコフ監督 「シベリアの理髪師」

エコノミストの野口悠紀雄さんが鉄道と人々の出会いについて書いたエッセイの中に1998年のロシア映画「シベリアの理髪師」の話が出てくる。「主人公とヒロインが最初に出会うのも、列車の中だ。この場面は、明らかに「アンナ・カレーニナ」を意識している」という指摘がなされている。ハリウッド版の映画の記憶がおぼろげだが、自由で意志の強いヒロインが悲しい恋をするという映画の雰囲気がよく似ている。

ニキータ・ミハルコフ監督は、若い頃から俳優として活躍した人で、この映画にもロシア皇帝役で出演している。威風堂々とした人で、エリダル・リャザノフ監督の名画「持参金のない娘」に主演した時の2枚目ぶりを思い出した。この映画は「セビリアの理髪師」をもじった題名だけでなく、映画全体にモーツァルトへの敬意が込められている。映画の題名はシベリアの森林伐採機の発明をめぐる話であること、ミハルコフ監督と何度も共演している名優オレク・メンシコフが演じる若い近衛兵がシベリアに流刑となる話であることなどを示していて面白い。

ヒロインと主人公が列車の中で出会う場面がユーモアたっぷりだ。ここでメンシコフはヒロインにモーツアルトのオペラから得意ののどを披露する。悲恋物語のはずなのに笑える場面がたくさんある。ヒロインが流刑になった近衛兵を探し回り、とうとう探し当てる。そこで新たな家庭を築いているメンシコフを見て身を引くところはソフィア・ローレンの「ひまわり」を連想させる。結ばれなかった二人には実は子供ができていた。この子が青年となり、軍隊の訓練でしぼられてもモーツアルトへの尊敬を貫く。この訓練の場面は「愛と青春の旅立ち」を連想した。遊び心がいっぱいの映画だ。

2012年に仕事でシベリアの街クラスノヤルスクを訪れた時に、同僚たちと食事をしながら、この映画の話になった。この辺りで撮影されていたからだ。撮影当時のことを覚えている人がいて話が盛り上がった。クラスノヤルスクはエニセイ河のほとりにある。

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