2015年8月19日水曜日

今井雅之さん追悼 ドラマ「深川の鈴」の思い出

今年の5月に俳優の今井雅之氏がご逝去された。この人が出演したTVドラマのVHSがわが家に残っている。19981月に放映された川口松太郎原作の「深川の鈴」だ。小説家志望の青年と子供を抱えながら深川で寿司を握っている女性の物語だった。ヒロインを演じた田中裕子の魅力が光るこのドラマで、一歩も引かないどころか、田中裕子演じる魅力的なおかみさんを夢中にさせる青年を清々しく演じていた今井氏のご逝去は残念だった。DVD化されてほしいなと思う名作だ。川口松太郎「人情馬鹿物語」からドラマ化された短編3話の一つだ。常盤新平氏がエッセイの中で、この物語は川口松太郎氏の実話に基ずいているのではと推理している。この小説をきちんと読んでみたくなった。

亭主に死なれて深川で寿司屋を一人で切り盛りしているおかみさんがいる。働き者で気立てがいい。小さな子供を抱えて女手一つでは大変だろうと世話を焼く人がいて、小説家志望の青年と縁談がまとまる。物心つき始めた子供は階下の部屋に寝かせているが、何かあったらすぐ様子が分かるように母と子の足を細紐でつないで鈴が鳴るようなっている。その鈴をチリリンと鳴らすのは寝ている子供ばかりではない。田中裕子演じるおかみさんは、しばらくすると青年に静かな口調で語りかける。「別れましょう。このままいたら、あんたは小説を書くことを忘れてしまう。相性が良すぎるみたいだし」。しみじみした味わいが記憶に残る作品だ。

田中裕子はNHKの朝ドラでブレークしたせいか、爽やかな印象が強いが、時折り妖艶さを感じさせる作品でも好演している。高倉健と共演した降旗康男監督の「夜叉」がすごい。小林薫と共演したドラマ「仕立て屋銀次」で演じた侠客の一家の跡取り娘の演技も色っぽさが際立っていた。戦後の日本映画の妖艶な美女と言えば、黒澤明監督の「羅生門」のヒロインを演じた京マチ子が最高だ。大地喜和子がその系譜につながる女優だと思っていたが、事故で早世したのが残念だ。その後と言うと田中裕子ということになる。近年の宮沢りえは透明感のある色気が目立つようになったが、「妖艶」という言葉で形容されるものとは違う。

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