「ブーケ~a bouquet~」「鐘楼のふたり」と五藤利弘監督の短編映画を続けてみる機会があった。どちらも富士山・河口湖映画祭のシナリオコンクールのグランプリ作品を五藤監督が映画化したものだ。第6回のグランプリを受賞した2014年公開の「ブーケ~a bouquet~」についてはブログで感想を書いている。
第4回のグランプリを受賞した「鐘楼のふたり」 (脚本:吉田忠史)は2012年公開の作品だ。この映画は河口湖畔に実際に存在する「さくや愛の鐘」がモチーフになっている。「さくや」というのは古事記、日本書紀に登場する「木花咲耶姫命」という神話の女神の名前だ。木の花のように美しいと伝えられるとともに、木の花のようにはかなく散る運命を象徴している。
この短編映画ではボクシングをする元気で魅力的なヒロインを佐久間麻由が演じ、ちょっと頼りない恋人を佐藤貴広が飄々と演じている。5年つき合った若いカップルが倦怠期を迎え、別れてしまうべきかと悩んでいるところから映画は始まる。思い出の鐘楼へ向かう途中で道に迷ったことで、残り数か月の命と宣告され、富士山麓の樹海で死に場所を探している中年男と偶然出会う。モロ師岡がこの男を演じた。この3人の俳優さんたちは五藤映画の常連の皆さんである。
この短編映画を観ての印象は、五藤監督の「フェルメールの憂鬱」の印象によく似ている。若いカップルの二人も死期の近い中年男もどうもこの映画の主役という感じではない。映画「フェルメールの憂鬱」で様々な登場人物が集まってくる「フェルメール」という喫茶店が、事実上の映画の主役だったように、富士山麓の樹海と夕陽で黄金色に照り返す河口湖の水面がこの映画の主役のように感じられた。「フェルメールの憂鬱」の感想でも書いたが、モロ師岡がとても良い味を出している。「倍返しだ!」の台詞で大ブームとなった番組でも渋い演技が光っていた。この俳優さんのファンにとっては必見の映画だ。