2014年10月15日水曜日

ミハイル・カザコフ監督「パクロフスキー門」 モスクワの秋の映画

1982年のこの映画はとてもほのぼのした味がある。スコピエで仕事をしていた時に本部から出張してきたロシア人のナターシャと映画の話になった。その時勧められた映画の一つだ。全編を通じて流れるロシアのシンガーソングライター、ブラト・オクジャワの挿入歌が良い。モスクワの中心にあるアルバート通りの歌だ。

主人公のコスチクが地方からモスクワに出てきて青春時代を過ごした共同アパートで出会った人たちを回想する物語である。ロシアを代表する名優オレク・メンシコフが主人公を演じている。メンシコフの主演作は「シベリアの理髪師」「太陽に灼かれて」「東と西」「ドクトル・ジバゴ」など数多い。この映画の中ではまだ少しにやけたお兄ちゃんで後年の威風堂々たる姿を感じさせるものはないが、感じの良い青年の役を好演している。


共同アパートの住人でユニークなのが出版社に勤めるレフという男だ。とても気が良くて、外国の詩が好きな愛すべき男なのだが一つだけ欠点がある。マイペースで自分の世界に住んでいるので周りの空気が読めないことだ。愛想をつかした奥さんは今は他の男と暮らしている。


このマイペース男の元奥さんであるマルガリータおばさんがすごい。太っ腹で頼りがいがあってロシアの肝っ玉母さんだ。自分の世界に住んでいる元夫に愛想をつかして、ドイツ系のもっとさっぱりしたオジサンと今は暮らしている。面白いのはこの別れた夫婦が同じ共同アパートに住んでいるのみならず、この元奥さんは何かと元夫のレフの生活に干渉してくることだ。陽気なドタバタコメディが展開する。


もう一人面白いアパートの住人がいる。ステージで歌とおしゃべりを披露するコメディアンのオジサンだ。機関銃トークが面白い。即興というわけではなく、原稿を書く人は別にいる。このライターとパフォーマーの関係についての描写も面白い。モテ男のコスチクが一目ぼれをして本気の恋をする話やら、元気オジサンのコメディアンが可愛い水泳選手に夢中になる話やら、マイペースのレフが自分と同じくらいトンデル恋人を見つける話やら盛りだくさんだ。


この元夫の新しい恋に気を揉むマルガリータおばさんがすごい。「ダメなあなたのことを愛していた私でさえ無理だったのだから、他の女となんか幸せになれるはずがない。結局不幸になるわ。そんなこと耐えられないから、わたしがあなたを守らなくてはならない」という信念のもとに、元夫の行動に干渉する。困ったものだが、この映画がとても面白いのはこの猛烈マルガリータおばさんのおかげだ。

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