2014年10月5日日曜日

パヴェル・チュフライ監督「ヴェラの運転手」

「ヴェラの運転手」はチュフライ監督の2004年の作品だ。映画はモスクワの場面から始まるが、物語はほとんどクリミア半島のセヴァストポリで展開する。ロシアとクリミアの関係を理解するうえでもこの映画は興味深い。軍港都市セヴァストポリにはロシア連邦の海軍基地が現在も存在し、2045年までウクライナからの租借地となっていた。

この映画の主人公ヴィクターを若い頃のトム・クルーズみたいなさわやかな2枚目が演じている。映画は1962年ごろのフルシチョフ時代の物語だ。映画の冒頭に流れるイタリアの歌「クアンド・クアンド・クアンド」が世界的に流行ったのは1961年頃からだそうだ。ソ連の「雪解け」時代を象徴するかのように若くて純朴なこの兵士は、用事でクレムリンに出かけてきたロシア海軍の将軍に気に入られてセヴァストポリ勤務となる。将軍には足の悪い年頃の娘ヴェラがいる。母を亡くしたこの娘は情緒不安定気味な上に、妊娠している。将軍はこのロシア風トム・クルーズに娘を託そうとする。青年にとっては美人だし、将軍の娘だし悪くない話だ。


映画は雪解け時代の明るさの一方で、KGBの暗躍を描く。クレムリンにとって都合の悪い者たちはたとえ将軍と言えども処分されることになる。ただKGBは将軍が隠し持つある事件についての証拠を奪い隠滅するまでは将軍に手を出せない。


1997年の「パパって何?」に続いての名監督チュフライの作品だが、以上のような骨太の話を縦糸にしながら、若者の出世の夢、二人の娘の間での葛藤、やがて心を開いた娘の純愛と盛りだくさんの内容になっている。前半の息詰まるような展開に比べると、話が大きすぎてどう終わっていいのかやや迷った感じはする。面白い佳作だ。

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